「地に足」夢の実現

モトクロス・テクニシャン(メカニック)の千葉長利(ちばながとし)氏

*バイクが好きになったきっかけはなんですか?

小学校5年の時に見た映画「汚れた英雄」(角川映画/草刈正雄主演)で初めてロードレースという世界に触れてすっかりバイクに魅了され、バイク雑誌を読んだり、生のロードレースを観に行ったり、高校になってすぐにバイクの免許取得しました。

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*レースに出場するようになったのはいつ頃からですか?

高校1年で50CCの免許を取得して、近所のバイク屋でバイクのことを色々教えてもらいました。それをきっかけにロードレースに加わってレースに初めて出場したら、優勝してしまったんです。それからは、バイクに乗りたいがために必死でアルバイトを始めました。250CCのバイクを購入したのは17歳の時です。

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*最初は、レーサーとして活躍されてましたよね?

20歳の時に初めてオフロードレースに出場してから、すっかりレース中心の生活となって、職も点々としました。
全日本レースの為に毎日働き、自分でバイクの整備をし、練習、トレーニングに明け暮れていました。実家の営んでいた中華料理店の手伝いもしていました。

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*その頃、奥様と運命的な出会いをしたそうですね。

モトクロスを始めて、初めてのレース中に怪我をして入院したんです。その時、妻もバスケットの試合で怪我して入院していました。
高校時代、彼女は全国大会に出場するチームに所属していたので、緊張の伴う自己管理の必要な世界をすぐに理解してくれました。そしてすっかり意気投合して、翌年に結婚しました。
現在は、二人の娘もいる4人家族です。

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*家族を支えて行かなければいけない一方で自分の好きなレースを続けることは可能でしたか?

実家の中華料理店で働きながら、細々とレース生活を続けていましたが、
99年のレースを最後に辞めざるを得ませんでした。お金もトーレニングする時間もありませんでしたから。それでも、バイクから離れたくなかったので、友人のプロライダーの下で、ボランティアでメカニックをやっていました。

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*その後、モトクロス・テクニシャンつまり日本でいうメカニックになるまでの経緯を教えて下さい。

中華料理店で働いていましたが、本当にいやいやだったのか、ついに体調を崩しました。そんな僕の様子を見て妻が言ってくれたんです。
「そこまでバイクがしたいなら、やってみれば」って。そのひと言に押されて決心がついて、手伝ってたライダーのアメリカレースにメカニックとして同行したんです。初めての外国がアメリカで、ワシントン州のレースだったのですが、観客の多さ、華やかさ、そして何よりも日本人唯一のレーサーだったのがとにかく印象的で。絶対にいつかアメリカでメカニックとしてやって行きたいと決心したんです。

それから数年後に家族4人でロサンゼルスを拠点にしている元レーサーを頼って来米しました。最初は、とにかく言葉も全くわからないまま死に物狂いで一生懸命レースの為に働きました。ヤマハのチームで、押し掛けボランティアとして始めたんですが、英語もできないし。でもメカニックの技術的なことは日本と同じですから、仕事を通して少しずつ認めてもらえるようになりました。

*自分の実力を認めてもらうまでに心がけたことはありますか?

もし自分が失敗すれば、日本人メカニックが認めてもらえない事になる。
大げさですが「自分は日本代表なんだ」と言う気持ちを常に心がけてました。

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*今は、ホンダのメカニックとしてロサンゼルスを拠点に活躍中ですが、一番苦労/大変だった事はどんなことですか?

やはり一番は「言葉」です。Hondaはしっかりした会社なのでその中で働く事に最初は不安がありました。この程度の英語力でやっていけるのか、と。
しかし職場で仲間に恵まれ、ヘルプしてもらいながら慣れることができましたね。普段の仕事、レースでの仕事内容は日本もアメリカも大きくは変わりません。しかし日常会話や緊急時などにスラングなど辞書には載っていないような事を言われた時は戸惑いますね。ですから前後の話しを良く聞いて理解しておかないと言葉に詰まることはあります。

僕の場合ただでさえ言葉の問題で現地の人より劣るので、その分日本人的な仕事をするように心がけています。当たり前のことすが、例えば、整理整頓が出来ていなかったら進んでやるとか、汚れる仕事は誰もやりたくないですよね、そう言う事を進んでやるように心がけています。

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*普段の仕事はどういうことをしているのですか?

年間レースのために毎日準備しています。仕事上移動が多く、年の1/3は出張になります。大型トレーラーにレース車両を積んでトラックドライバーが運転して全米を転戦するのですが、僕らメカニックは飛行機移動なんです。

1週間の流れは、レースが土曜日。日曜日は次のレースに向けてバイクを整備、全てバラバラにしてボルト1本1本に至るまで部品を全て洗浄して確認。1日かけて整備し、翌日月曜日にLAに戻ります。火曜日は次のレースのミーティング。水曜日はオフ。木曜日は次のレース会場に向かう移動日。金曜日はセットアップ。そして、土曜日はレース。とこんな感じです。慣れるまではきつかったです。

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*今後の夢は?

自分の担当のライダーにチャンピオンを取ってもらう事。もう一つは、今まで日本代表で2度参加した事がある”Motorcross of Nations” モトクロスオブネイションズ(国別対抗レース、各国の代表ライダーが3名1チームになりレースをする)に今度はアメリカ代表のメカニックとして参加して優勝する事です。

*自分のやってきたことを通して、若い人にアドバイスするとしたら?

僕はアドバイス出来るような立場じゃありませんが、ただ言える事は目標を持ってそれに進もうとした時、「頑張れ!」と励ましてくれる人と「そんなの無理だよ!やめとけよ」と2通りの意見をもらうはずです。
しかし自分がやろうと決めたら、前者の意見を励みにして「必ず成功するんだ」と言う強い気持ちを持っていれば必ず成功します。僕も前者の励ましを沢山もらい頑張る事が出来ました。

モトクロス・オブ・ネイションズ(Wikipedia)

「地に足」夢の実現

(インタビュー後記)

「レースがドジャーズ球場であるよ。」とトシさん。早速息子たちと友人を誘って見学に行きました。全く未知の世界に入った私は、土埃の臭いとバイクのエンジンの爆音に圧倒。息子たちは目の前で走っているバイクと観客の熱気に興奮し、一緒行った男の子の一人は、その日からすっかりバイク少年に。
トシさんが子供の時に夢中になってしまった理由が実感できた瞬間でした。
目をキラキラさせて仕事の話をして下さった彼の言葉は、本当に自分のやりたいことを一生懸命やってきた、説得力のあるものでした。どんな仕事でも自分が好きなことであれば、これほど幸せなことはありません。
最後にトシさんは、「自分の今の生活があるのは、影で僕を支えてくれてる妻と娘たちなんです。」と話して下さいました。

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